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千葉地方裁判所 昭和57年(ワ)309号 判決 1984年6月28日

原告 長橋助一郎

右訴訟代理人弁護士 河本和子

被告 大野秀一こと 姜秀一

右訴訟代理人弁護士 平岩敬一

同復代理人弁護士 森田明

同 遠矢登

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の各不動産について千葉地方法務局八千代出張所昭和五六年七月三〇日受付第一〇、〇〇六号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

原告は、もと別紙物件目録記載の各不動産(以下本件不動産という。)を所有していた。被告は、本件不動産について昭和五六年七月三〇日譲渡担保を原因として、請求の趣旨掲記の登記(以下本件登記という。)を経由している。

よって、原告は、被告に対し、本件不動産の所有権に基づき本件登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  被告の主張

1(一)  「東邦商事」こと訴外加藤次成(以下加藤という。)は、昭和五六年七月三〇日、原告代理人である訴外長橋良子(以下良子という。)の復代理人又は使者である某(自称原告)に対し、金二二〇〇万円を貸し渡し、その際、右自称原告から右債権の担保として、本件不動産について譲渡担保権の設定を受けた。

(二) 原告は、良子に対し、右契約に先立って代理権を授与しかつ復代理人選任について黙示に許諾した。

2(一)  かりに良子に代理権がなかったとしても原告は、良子に対し、本件不動産の権利証、原告の印鑑証明及び実印を交付し、同女がこれを自由に使用することを許諾し、同女もこれを自由に使用しており、また訴外尾本等から本件不動産を担保に金員を借受ける代理権を付与していた。

加藤は、以下に述べるような事情があるから、良子が原告を代理して1掲記の契約をなすについて権限があると信じたのであり、そう信ずるについて正当な理由があったというべきである。

イ 良子は、右契約当時原告の妻であった。

ロ 加藤の従業員訴外湯浅寿(以下湯浅という。)は、昭和五六年七月二八日ころ、良子の代理人又は使者である某(自称原告)から担保物件である本件不動産の現地に案内され説明を受けた。

ハ 右自称原告は、前記契約当日、湯浅に対し、原告の住民票、実印、印鑑証明、本件不動産の評価証明を持参し提示した。

ニ 自称原告は、前記契約当日、本件不動産のうち、土地について既に抵当権等の設定を受けていた尾本を呼び、湯浅から受領した金二二〇〇万円のうち金一七〇〇万円を尾本に交付し、同人から、権利証等右抵当権等の抹消登記手続に必要な書類の交付を受けた。

ホ 本件不動産のうち建物については前記契約前表示登記しかなされていなかったが、自称原告は、湯浅に対し、現在保存登記手続中である旨述べ、右契約までにその登記手続がなされていた。

従って、民法一〇九条、一一〇条の重畳適用によって、原告は本人としての責任を免れない。

(二) 仮にそうでないとしても、2(一)記載の事実関係のもとにおいては、加藤は自称原告が原告本人であると信ずるについて正当事由があるというべきである。従って、民法一〇九条、一一〇条の類推適用により、原告は本人としての責任を免れない。

3  加藤は、東邦商事が法人格を有しないことから、これまでの慣例に従い、自己を表示する方法として、東邦商事の従業員であった被告名義で本件登記を経由した。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認。

2  同2の事実のうち、良子が当時原告の妻であったことは認め、その余は否認。

3  同3の事実は不知。

仮に被告の主張が認められたとしても、本件不動産の譲渡担保権の被担保債権を有する者は加藤であって被告ではないのであるから、被告を譲渡担保権者する本件登記は実体関係に合致せず、当然抹消されるべきである。

第三証拠《省略》

理由

請求原因事実は当事者間に争いがない。

そこで被告の主張について検討するに、被告は、加藤が原告代理人からその貸金債権担保のため本件不動産に譲渡担保権の設定を受け(仮に代理権が欠缺しているなどしていたとしても表見法理により原告は本人としての責任を免れない)、自己を表示する方法としてその従業員である被告名義で本件登記を経由した旨主張する。

しかして、実体上の権利者が自己の名以外の名称でその権利の登記を経由した場合に、その名称が自己の商号であるとか、一般に遍く知れ亘った通称であるなど両者が実質上同一人格を指称するものであることが客観的に明白であるような特別の関係にあれば、実体上の権利者と登記上の権利者とが同一と認められるから、結局その登記は実体上の権利関係と符合するものとして効力を有するものであるが、右のような特別の関係にないときには、実体上の権利者と登記上の権利者とは人格を異にするものであって、結局その登記は実体上の権利関係(権利主体)と符合せず効力を有しないものであり、従ってまた、登記上の権利者は、実体上の権利者の権利をもって、自己がその登記を有するについての正権限として主張することはできないものというべきである。

しかるに、被告の主張によれば、実体上の譲渡担保権者である加藤と登記上の譲渡担保権者である被告とは全く別個の人格を有する自然人であることが明らかであり、《証拠省略》によれば、「東邦商事」の商号で金融業を営む加藤は、専ら事務処理上の便宜から、その従業員である被告の名で本件登記を経由したことが認められるのであるから、実体上の譲渡担保権者であるという加藤即ち登記上の譲渡担保権者である被告というべき特別の関係にないことは明白である。そうであるとすれば、加藤が本件不動産について譲渡担保権を有することは被告が本件登記を経由するについての正権限として主張する理由とはなりえない。

なお、被告の主張によれば、加藤は本件不動産について譲渡担保権を有するのであるが、その証拠として援用する《証拠省略》によれば、右譲渡担保権は加藤が原告に対して有するという元本金二二〇〇万円の債権の担保の趣旨であることが明らかであるから、加藤が本件不動産について譲渡担保権を有するとしても、譲渡担保権設定者である原告は、特段の事情のない限り、その所有権に基づき、実体上の権利を欠く本件登記を有する被告に対し、その抹消登記手続を求めることができるものというべきである。

従って、その余の点について判断するまでもなく、被告の主張は失当として排斥を免れない。よって、原告の本件請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤陽一)

<以下省略>

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